リニア着工認可 一極集中の加速でなく
東京-名古屋を最速四十分で結ぶリニア中央新幹線は、社会を一変させる可能性を秘める。東京一極集中を加速させるのではなく、人口減少を見据え、地方の暮らしを守るインフラにしなければ。
国土交通相が着工を認可し、リニア中央新幹線は基本計画決定から四十年余を経て、実現への大きな一歩を踏み出した。
JR東海の計画では、まず、品川-名古屋を二〇二七年に開業させる。四五年に全線開業すれば、東京-大阪が一時間七分で結ばれることになる。
政府は六月に閣議決定した成長戦略にリニアの早期整備・活用を盛り込んだ。三大都市圏の往来を活発にし、経済を活性化させようという考えである。
経済界は、いわば世界一の巨大都市圏が形成され、国際競争力が増すことを期待している。各県に一つずつできるリニア駅の周辺では、早くも再開発の機運が盛り上がっている。
大きな夢が語られる一方で、副作用への懸念も、また大きい。
計画を審査した国土交通省の交通政策審議会は、一一年の答申の付帯意見で「さらなる東京一極集中を招く可能性」を指摘し、開業すれば活性化、という安易な発想を戒めている。
日本の社会が人口減少に直面する中、人や企業が大都市に集中する動きをリニアが助長するのであれば、地方の疲弊に拍車をかけるだけだろう。
何よりも心配なのは、これまでも指摘してきた通り、山河を貫く大工事が環境に与える悪影響である。沿線住民の不安や疑問は、日を追って大きくなっているように見える。JR東海は、沿線の人たちと真摯(しんし)な対話を重ねながら工事を進めなくてはならない。
リニア中央新幹線は、今月開業五十年を迎えた東海道新幹線のバイパスとしての役割を持つ。
計画段階では不要論も強かった東海道新幹線は、やがて高度経済成長を支える大動脈に育った。では、社会が成熟期を迎えた今、巨額を投じるリニア新幹線に、何を求めればよいのか。
少子化の要因の一つが、出生率の低い大都市圏への人口流出。不均衡の是正は急務だ。であれば、リニアがもたらす移動時間短縮の恵みを一極集中の解消につなげたい。地方の暮らしを助けるインフラにできれば、新しい生活の姿、仕事の姿も見えてくるだろう。
青信号はともったが、運転が難しいのは、これからである。
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