2014年10月23日木曜日

「リニア着工認可」造る意義の説明が必要(南日本新聞2014年10月23日社説)

[リニア着工認可] 造る意義の説明が必要
( 10/19 付 )
JR東海が2027年に東京・品川-名古屋間で開業を目指すリニア中央新幹線の着工を、国土交通相が認可した。
 日本独自の超電導リニア技術を世界で初めて高速鉄道に導入し、最高時速500キロ超で浮上走行する。最終的には45年をめどに大阪まで延伸し、東京-大阪間を67分で結ぶ総額9兆円を超える巨大プロジェクトである。
 国の基本計画決定は1973年のことだ。40年以上を経て、新たな「夢の超特急」が実現へ大きな一歩を踏み出した。
 だが、この間に日本を取り巻く環境は激変し人口減少社会に突入した。右肩上がりの成長が望めない時代に、一層の時間短縮を目指す意義が分かりにくい。
 着工を認めた政府は、リニアを造る意義と、その効果について説明責任を果たしてもらいたい。
 名古屋までの工費は約5兆5000億円。大阪までの延伸を含めてJR東海が全額負担する。国の財政状況が悪化し公共事業費の削減が続く状況を考えての決断に違いない。段階的な整備は、借金を抑える経営判断からだという。
 JR東海は「日本の大動脈を二重化する、これからの日本に不可欠なプロジェクトだ」と強調している。開業から半世紀が過ぎた東海道新幹線のバイパスとしての役割や、南海トラフ巨大地震など災害への備えである。
 安倍政権は6月、成長戦略にリニアの早期整備を盛り込んだ。東京と名古屋などで巨大都市圏が形成されることによる経済活性化や、リニア技術を海外へ売り込む狙いがあるからだ。
 ただ、リニア整備は「さらなる東京一極集中を招く可能性もある」と国交省の審議会が指摘している。政府は地方創生を重要課題として一極集中への歯止めを掲げるが、矛盾はないだろうか。
 関西の政財界は地盤沈下を懸念して、大阪への延伸前倒しを主張している。政府は社会的な影響を慎重に評価したうえで、前倒しの是非を判断する必要がある。
 工事は難航が予想される。品川-名古屋間286キロの86%は地下や山岳トンネルで膨大な量の土砂や汚泥が出るが、うち2割しか受け入れの見通しはなく、安全性や計画性になお課題が残る。
 南アルプスを貫通することなどから、自然環境や景観を壊すと反対も多い。JR東海は沿線住民らへの説明を尽くしてほしい。
 民間企業が実施する事業としても、リニア整備は国土政策に影響する。政府はJR東海に丸投げするのではなく、もっと前面に出て国土形成の責任を果たすべきだ。

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