社説:リニア着工認可 まだ議論の時間はある
毎日新聞 2014年10月18日 02時30分
JR東海が品川−名古屋で2027年の開業を目指すリニア中央新幹線の工事に、国がゴーサインを出した。環境への影響、安全性や事業そのものの採算性など、大いに疑問を残したままの認可である。
だが結局、国会で十分審議されることも国民的な議論が起きることもなく、申請から2カ月足らずで認可が下りた。残念であり、なぜ急がねばならないのかと、首をかしげざるを得ない。 国民的議論を経ず見切り発車となることのないよう、私たちは求めてきた。45年に予定される大阪までの延伸分も含めると総工費約9兆円という超巨大プロジェクトだ。JR東海が全額自己負担するというが、計画が狂えば国が支援に乗り出す可能性を排除できない。一民間企業による設備投資と片付けられない重大な国家的事業なのである。
着工認可を受け、JR東海は沿線住民への説明会や用地買収に着手する予定だ。トンネル掘削で大量に発生する残土の処理をはじめ、環境や景観への影響を特に心配する沿線住民の理解を得ることは当然である。
同時に国民全体への丁寧な説明も不可欠だ。まだ時間はある。国会はJR東海や認可を出した国土交通相に報告・説明を求め、環境、安全性、採算性など幅広い観点から議論を尽くす責任がある。
確かに夢を感じる話である。線路の上を走る従来の鉄道とは全く異なる超電導技術が品川−新大阪を1時間あまりで結ぶ。国内の経済波及効果や海外への輸出チャンスにも期待が膨らむ。東海道新幹線も建設前は反対があったが、造ってみたら大成功だったと、50年前を引き合いに出す推進論もあるようだ。
だが、スピードや大量輸送に絶対的価値があった時代ではもはやなくなろうとしている。国の経済も人口もこれから伸びようという当時と、高齢化、人口減少に向かっている今は大いに違う。
特に需要を支えるビジネス利用客の世代の人口(生産年齢人口)が2050年には今より4割近く減少すると推計されているのに、JR東海の需要予測(新幹線とリニアの合計)は、25%程度増えるというものだ。航空機利用客の移入を見込むというが、通信技術の革新などにより、約30年後、出張の需要そのものが劇的に変化している可能性もある。
南アルプス直下を貫くトンネル工事など技術的な難関、資材や労賃の上昇、金利負担の増加など、「想定外」の現実に直面することもあろう。場合によっては立ち止まる勇気も必要だ。とはいえ、何より先にまず十分な説明と議論である。国会の役割に期待したい。
0 件のコメント:
コメントを投稿