2014年10月18日土曜日

難問山積の長大トンネル リニア工事認可(中日新聞2014年10月17日 国交相)

難問山積の長大トンネル リニア工事認可 

2014/10/18 紙面から
南アルプスを貫く計画のリニア中央新幹線。難工事が予想される=6月2日、本社機「おおたか二世」から
 十七日に太田昭宏国土交通相が工事認可したリニア中央新幹線計画。東京・品川-名古屋間を四十分で結ぶ前例のない巨大プロジェクトが動きだす。ルートの九割近くがトンネルとなるだけに、リニアの工事は土との格闘だ。十三年後の開業を目指すJR東海にとって、大量の工事残土の処理や南アルプスの掘削といった難問が立ちはだかる。

■悩みの種

 「可能な限り早期に多量の建設残土の利用先を確保すること」。環境影響評価(環境アセスメント)をめぐり、太田国交相は七月、JR東海が提出した評価書に注文を付けた。
 リニア工事では、ナゴヤドーム三十三杯分の五千六百八十万立方メートルの残土が発生するとされる。自社だけでは処理できないほどの膨大な量。残土の活用先が決まらなければ、工事の遅れにつながりかねない。
 JR東海は沿線の都県を通じて地元に残土の受け入れを求めているが、昨秋の沿線住民への説明会では、活用方法について「調整中」との回答を繰り返した。当初の評価書でも、活用先を明記していたのは山梨、静岡県内の一部だけ。住民からは「説明が不十分」と不満の声が上がっていた。
 七月以降、岐阜、長野両県が、残土の受け入れ候補地をJR東海に提示。愛知県内では、窯業団体が採掘中の鉱山の埋め戻し用に受け入れを検討している。ここにきて残土活用に向けた動きが加速しつつある。
 国交省によると、めどが立っている候補地と、JR東海の活用分を合わせると、全量の三割弱。それとは別に各県から示された候補地は、現在、全量の八割に上る。
 ただ、候補地の多くでは、地権者の同意や受け入れ量の調整など協議が本格化するのはこれからだ。首都圏での残土処理も悩ましい。現在までに東京都から候補地の提示はない。JR東海の柘植康英(こうえい)社長は「首都圏は残土が出る他の事業もあり、難しい状況。先が見えていない」と話す。

■工事車両

 膨大な残土の量だけに、運び出す工事車両の数も桁違いだ。
 唯一の幹線道路に、残土の運搬車が一日最大で千七百台も走ると予測されている長野県大鹿村。村観光協会の平瀬長安(ながやす)会長(73)は「残土を運ぶトラックが通る県道は、高校生の通学や日々の買い物だけでなく、救急車も使う村の生命線。大量にトラックが走ることで、村民の生活が脅かされる」と不安をのぞかせる。
 運搬車が通る県道は急カーブが連続し、幅五メートルほどしかない場所も点在する。JR東海は道路拡幅などを行う方針だが、具体的な対策は明示されておらず、地元の懸念はぬぐえない。排ガスや騒音など環境への不安もある。村議会は九月十八日、国交相らに、地元住民の懸念が解消されるまで工事認可しないよう求める意見書を可決した。

■最大の壁

 掘ってみないと分からない。それがトンネル工事の難しさだ。
 最深千四百メートルの山中を二十五キロにわたって掘り進める南アルプスの掘削は、一番の難所とされる。長大で深いだけでなく、崩れやすい地質で大量の出水も予測される。南アルプスを迂回(うかい)するルートも検討されたが、今の施工技術で対応可能として最短区間で工費の安い現ルートが選ばれた。
 一九八二年に開業した上越新幹線は、トンネル工事に泣かされている。群馬、新潟県境を貫く大清水トンネル(長さ二十二キロ、最深千三百メートル)の掘削では、わき水があふれたり、巨大な岩石がはがれ落ちたりして何度も工事が中断。開業が五年遅れ、総工費は三・五倍に膨れた。
 南アルプスでは、今もJR東海がボーリング調査を続けている。着工となれば、本坑を掘る前に、試験的に近くに穴を開けて地中の状態を確認しながら工事を進めるという。JR東海の担当者は「難工事ではあるが、工事の技術も進歩している。工期通り仕上げられる」と説明する。

 (リニア取材班)

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