環境・採算不安 積み残し 巨額リニア 見切り発車
JR東海が東京・品川-名古屋間で二〇二七年開業を目指すリニア中央新幹線の工事実施計画は、国土交通省が十七日認可し、手続き上の「着工」となったことで、実現へ向けて動き始めた。東海道新幹線に代わる新たな高速鉄道への期待が高まる半面、環境への悪影響、大量の電力消費への心配などに加え、採算を不安視する声もある。 (小松田健一)
環境面で大きな課題は、総延長の86%を占めるトンネルの掘削に伴って発生する建設残土だ。運搬時の騒音や振動に加え、処理地周辺の水質や生態系への悪影響など、さまざまな問題点が指摘されている。過去に例がない膨大な量だけに、全量処理の見通しが立つまでには難航が予想されている。
また、南アルプス、中央アルプスなどの山地をトンネルで通過するため、水源に悪影響が及ぶ懸念もある。
計画に反対する市民団体からは、JR東海が提出した環境影響評価(アセスメント)がこうした懸念への対処方針を十分に示していないにもかかわらず、国は認可したとの批判も出ている。
原発事故を契機に省エネへの取り組みが進む中、大量の電力を使う点にも厳しい目が向く。リニア中央新幹線の消費電力は、東海道新幹線の新型車両「N700A」の四倍。JR東海は「電力会社の供給能力に問題が及ぶほどの消費電力ではない」と主張するが、さらなる省エネ努力が必要だ。
東京-名古屋間で五兆五千二百三十五億円、名古屋-大阪間で三兆六千億円に上る巨額の事業費は全額をJR東海が自己負担する。同社は旧国鉄民営化後に五兆五千億円の債務を抱え、一三年度末の時点で二兆四千億円まで減らした。リニア建設で債務は再び増加に転じるが、今後得られる収益で少しずつ圧縮し、最大でも五兆円を上回らない程度に収める考えだ。
◆地域分断 相模原の車両基地予定地 住民大半 立ち退きも
リニア中央新幹線で、首都圏唯一の中間駅が設置される相模原市のJR・京王橋本駅。その南西約十三キロの山あいにある同市緑区の鳥屋地区に「リニア車両基地 絶対反対!」の看板が立つ。ここに土が盛られ、東京ドーム約十個分の広さの車両基地が建設される。
地区内の谷戸自治会は東西に分断され、四十世帯以上あるうちの三分の二が移転を迫られる可能性がある。JR東海の環境影響評価(アセスメント)は「自治会活動に一定の影響が生じると考えられる」としながら、車両基地の下にトンネルを通すことで通勤や通学に大きな影響は出ないとする。谷戸自治会の奈良信会長(62)は「トンネルができても自治会の結び付きは弱まり、多くの世帯が移転すれば地域コミュニティーが崩壊する」と危ぶむ。
鳥屋地区には「夏はホタルが舞い、小鳥のさえずりで目を覚ます」(五十代男性)自然環境が残る。アセスメントは絶滅の恐れのあるオオタカの営巣地を地区内で発見したとして「事業による影響を低減するよう努める」と記載。環境相は六月の意見書で、希少猛禽(もうきん)類の繁殖に重要な地域を回避し、営巣期の工事の回避も検討するよう求めたが、JR側の具体的な対応はない。
相模原市に隣接する神奈川県座間市は、建設工事に伴う地下水への影響を懸念する。水道水源の85%が地下水で、橋本駅周辺を通って流れ込んでいるが、アセスメントは市への影響に触れていない。市はJR東海に二度質問書を送り、詳しいデータや説明を要求。しかし、社員から「アセスメントの記載通り」という旨の説明が口頭であったのみという。
市の担当者は「地下水位が低下する可能性がゼロではないため、危惧している」と話す。
日本自然保護協会の辻村千尋保護・研究部主任は「アセスメントの目的の一つは住民意見を取り入れながら合意形成を図ることだが、JR東海が示すデータは科学的に妥当か否かすら評価できない内容。自らの主張を押しつけているだけのように映る」と指摘する。 (寺岡秀樹)
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