どうもすっきりしない。
 JR東海のリニア中央新幹線計画のことだ。取材を重ねるたび、もどかしさが募る。
 質問すれば、JRの担当者は丁重に説明してくれる。ただ、肝心の答えがどこかぼやっとしていることが多い。
 JRが先月4日、中間駅予定地の相模原市で開いた住民説明会でも改めて感じた。
 住民男性「(神奈川県内で出る1140万立方メートルの)残土は誰が責任を持って、どこで処理するのか」
 JR「30%は車両基地に使う。ほかはほとんど決まっていない。自治体と調整する」
 住民女性「トンネルで事故が起きたら、乗客のお年寄りらをどう避難させるのか」
 JR「トンネル下部の安全な区画を伝って、非常口から地上に出ていただく」
 「何キロ歩くんですか」などとヤジが飛んだが、JR側はそれ以上回答しなかった。
 リニアはしばしば「夢の超特急」と呼ばれる。最高時速505キロで走り、東京、名古屋、大阪を1時間圏に変える。経済効果への期待感は政財界を中心に極めて強い。
 もっとも、新路線が敷かれる地域住民の理解を得ることは譲れない条件のはずだ。
 JRは「環境や安全対策は万全。ご安心を」と繰り返す。だが、住民一人ひとりの疑問や懸念に向き合い、丁寧にぬぐおうとする姿勢が乏しいと感じる。私個人は「夢」と持ち上げる気になれない。
 朝日新聞の社説はリニア計画に反対してこなかった。本格的に動き出した08年10月の社説は「大いなる期待」を示しつつ、国民の懸念を一掃するようJRに求めている。
 国の工事認可が迫った今年9月、私は「懸念は消えていない。JRと国は計画をいったん止めては」と、反対色を鮮明にする社説を提案した。しかし論説委員室の多数の賛同は得られなかった。
 民間企業のJRが全経費を自己負担するとし、慎重に手続きを踏んで進めてきた事業だ。今さら止めろと言うには論拠が弱い――。同僚からはこう指摘された。
 確かにJRの進め方に形式面で疎漏はない。だが実を伴っているか。「夢の超特急を早く」という大合唱の陰で、最も大切にされるべき合意形成がなおざりにされているのでは、との感が否めない。
 JR東海はいま一度、リニアへの異論にじっくり耳を傾けてほしい。「夢」を誰からも歓迎される現実にしたいなら、見切り発車はだめだ。
 (かどやすふみ 社会社説担当)