■壊される原風景
森や田んぼが広がり、静寂の中に、鳥や虫の鳴き声が聞こえる。七十八世帯が暮らす日吉町南垣外は野生の動植物にあふれ、瑞浪市でも、自然豊かな場所として知られる。
JR東海は、この地域に約七・四キロの地下トンネルと、地下と地上とを斜坑でつなぐ非常口を設けるほか、発生する残土の埋設を計画。すでに工事用道路や歩道の整備などの準備工事に着手しており、今年中に起工式を行い、来夏にトンネル工事を始める予定だ。
計画によると、南垣外工区では、十トントラックなどの工事車両の通行が一日平均で最大百六十台に上る。百三十万立方メートルの残土が出ると想定し、このうち八割強の残土を同工区に埋め立てる。残りの二割弱の残土の行き先は、まだ決まっていない。
■内心は全員反対
地元住民は、二〇一四年十二月、JR東海が同町で開いた地元説明会で、初めて計画の内容を知ったという。一年後の一五年十二月に南垣外の自治会でリニア対策委員会を編成。リニア工事に向けた地元の要望や意見、問題をまとめた。
自治会が「反対はしない」との方針を決めたのは今年一月。自治会長の熊谷盛治さん(65)は「理由は、国家的プロジェクトに反対するのは現実的ではないに尽きる。心の中ではもちろん、全員が反対している。住民には何のメリットもなく、迷惑でしかない。だが、反対闘争をすれば、みな疲弊してしまう。苦渋の選択だった」と打ち明けた。
■安心安全求める
JR東海と住民の意見交換会は、一五年十一月から今年九月まで四回あった。日吉町周辺には、ウラン鉱床が点在していたり、狭い生活道路の市道を十トントラックが走ったりするため、住民はこれまで、具体的な対策について要望を出してきた。
今月二、六日には、県内で初めて、本格的なトンネル工事説明会が日吉町で開かれ、計百四十人以上が参加した。関係者以外には非公開で行われ、説明会後、JR東海の中央新幹線岐阜工事事務所の渡辺隆所長は「生活道路の安全対策やウラン鉱床を心配する声が上がった。だが、万全の管理体制で進めるので、安全は確保できると思う」と話した。
しかし、地元住民の多くは「説明は十分ではない」と受け取る。小学六年生の男児を育てる会社員の女性(49)は「息子が大きくなって、一度出て行っても、また戻ってきたいと思えるような、ふるさとの自然を残しておきたい。本当はこの自然を壊したくない」と憤りを示す。熊谷さんは「今後も意見交換会を開いて、生活の安心と安全を守れるよう交渉を続けたい」と話した。
(篠塚辰徳)
(篠塚辰徳)
<リニア中央新幹線>2027年の開業を目指し、東京・品川-名古屋間の約285キロを結ぶ。県内の路線は2割弱。県内では岐阜県駅と中部総合車両基地、変電施設2カ所、山岳部の非常口7カ所を設ける。
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