2016年10月23日日曜日

リニアに同意 民意をくみとったか 信濃毎日(2016年10月22日)社説

リニアに同意 民意をくみとったのか

 JR東海のリニア中央新幹線計画の南アルプストンネル長野工区(8・4キロ)について、下伊那郡大鹿村と村議会が工事開始に同意することを決めた。

 これを受け、JRは11月1日に起工式を行うと発表している。10年余にわたって村民生活に影響を与える工事である。着工の前提となる確認書をJRと締結する前に、村と議会は内容を村民に十分に周知し、民意をくみとったのか。手続きへの疑問は残ったままだ。

 JRは本格着工する前提として「住民理解」が必要としつつ、理解を得たかどうかはJRが判断する考えを示してきた。村民には説明会の開催を理由に、JRが「理解を得た」と判断し着工するのではないかという不信感があった。

 そのため、村議会は3日、村議会と村長が同意を表明した後の工事開始をJRに求める意見書を提出している。工事内容に納得できるのか判断するのは村民である。意見書は当然の対応といえる。

 ただし、村と村議会には村民がJRの対応に納得したのか、見極める責任があったはずだ。

 JRの説明会では、出席者から工事に対する不安や疑問が出た。確認書はそれらに対するJRの回答でもある。それなのに村が確認書を公開したのは締結した後だ。これでは村民に異論があっても反映できない。さらに締結から同意表明まで、わずか2日である。

 議長はJRに意見書を出した後、「各議員で住民の意見をくみ取った上で、工事開始に同意できるか全村議で協議する」と話していた。この約束は守られたと言えないだろう。村政に対する不信も生みかねない。

 県内のリニア工事は、南アルプストンネルのほか、伊那山地トンネルや中央アルプストンネルといった長大トンネルが控えている。関係市町村が今後、同様の対応を続けると、住民と自治体、JRの信頼関係は築けない。

 JRもこれまでの対応を改める必要がある。大鹿村で最後に開いた説明会でも「住民理解」の考え方を巡り、村民から何度も疑問の声が出た。JRは「(手続き論で言えば)法律上はもう工事を進めていい状態になっている」と述べた。住民の不安と真摯(しんし)に向き合う姿勢があるのかが問われる。

 県内の関係自治体の首長には、JRの対応について「むしろ住民理解を遠ざける要因になっている」という見方がある。住民が理解し納得しなければ、予定通りに着工できたとしても工事を円滑に進めることは難しくなる。 

(10月22日)

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