2016年11月2日水曜日

リニア南アルプストンネル長野着工 地元大鹿村は観光に影(2016年11月2日中日新聞)

リニア南アトンネル長野着工 地元大鹿村は観光に影 2016/11/2 朝刊 東京・品川-名古屋間で二〇二七年の開業を目指すリニア中央新幹線計画で、JR東海は一日、最難関とされる「南アルプストンネル」長野工区の工事に着手した。現場の長野県大鹿村で起工式を催し、山田佳臣会長や阿部守一知事らが参加。柘植康英社長は「難しい工事だが、安全に乗り切りたい」と述べた。 トンネルの全長約二十五キロのうち、今回の長野工区は八・四キロ。 山梨県側に向かって掘り進め、二四年に掘削を終える予定。 工事で出る三百万立方メートルの土砂の処分先が決まっておらず、大量の工事車両で生活環境が悪化するのを心配する住民も多い。起工式会場の外では、反対する約四十人が集まり「説明責任が果たされていないのに着工するのはおかしい」などと抗議した。◆川魚養殖場閉鎖へ 露天風呂前ダンプ通過 JR東海が一日にリニア中央新幹線工事に着手した長野県大鹿村では、関連工事の期間中、大量の大型車両が村内を行き交う。村内の宿泊施設に川魚を提供する養殖場が立ち退きを迫られ、来年にも閉鎖される。観光への影響を心配する関係者は「貴重な地元産の食材も失われる」と危機感を抱く。 イワナやニジマスが元気に泳いでいた。南アルプスの麓にある大鹿村の中村養魚場。夫婦で営む中村和雄さん(67)は「川魚本来の味を楽しんでほしいとの思いで続けてきた」と語る。 最大で長さ二十メートル、幅一・八メートルの養殖池が三十面あり、卵から育てた川魚を旅館などに出荷。半世紀にわたって、村の主力産業の観光を支えてきた。 リニアへ電気を供給する変電所の予定地に組み込まれ、二年前にJR東海から用地買収の打診があった。旅館などから「なぜ養殖場が対象に」「続けてもらわないと困る」と応じないよう求める声が上がった。 しかし、中村さん夫妻は閉鎖を決めた。午前五時から働き、えさやりや出荷に追われて帰宅は午後十時。働きづめの両親を見てきた一人息子は「とても継げない」と村を離れた。中村さんは「水が変わると魚は育てられない。近くで土地を探したが断られた。しょうがない」とこぼす。 中村さんの養殖場から仕入れる大鹿村の旅館「赤石荘」は一年中、川魚で宿泊客をもてなし、特に夏場はイワナの刺し身が好評だ。経営する多田聡さん(43)は「閉鎖後は冷凍の魚を扱わざるを得ない。ぷりぷりの食感の刺し身はもう出せない」とため息をついた。 海水とほぼ同じ塩分濃度の温泉が目玉の旅館「湯元山塩館」を経営する平瀬定雄さん(48)は「露天風呂の目の前を工事のダンプが走る旅館もある」と不安を隠さない。 同館の宿泊客の九割が中京圏や首都圏など県外からで、川魚は地元産をPRできる数少ない食材だ。平瀬さんは「リニア工事で貴重な食材を奪われる。何とかならないか」と話す。 村観光協会は、観光客が減少した場合の補償や養殖場の代替施設を求めたが、JR東海は「考えていない」と応じた。
 (沢田佳孝)

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