名駅近くで手荒い地上げ リニア再開発で地価高騰
2018/9/2 朝刊
リニア中央新幹線開通に向け、再開発に沸く名古屋駅近くで、借家人がいる古い木造長屋の一部が、所有者側によって破壊されるトラブルがあった。壊したのは長屋を管理する不動産会社の関係者とみられ、住人らは、不審者の侵入や放火の危険性など治安への影響を懸念。会社側は秋にも取り壊しに入る構えで、立ち退きを住民に迫っている。一帯では地価が上昇を続け、ビルやマンションなどへの建て替えが進む。業界に詳しい関係者は「集合住宅の空き家が増える中、ほかの地域でも起きる可能性がある」と指摘する。
名駅から南西に徒歩十分ほどの、木造民家や商店などが並ぶ昔ながらの住宅街。三月下旬、ゴムハンマーやくわを持ったスーツ姿の男性らが、長屋の空き室となった部屋の扉や窓を次々と壊していった。一階の窓は大きく割れ、戸が外れた玄関からは裏庭までが丸見えの状態に。半年近くたっても放置されたままだ。「誰でも入れる状態で怖い。放火やいたずらに遭うのではないか」。長屋の隣の部屋に住む七十代の男性は、不安を口にした。
関係者によると、長屋は約六百三十平方メートルの敷地に立ち、十戸が入る。築七十~八十年経過し、今も住むのは三世帯。二〇〇八年に三重県の地権者から大阪の不動産会社に土地・建物の所有権が移り、さらに一一年に関連の別の不動産会社が購入したという。
住民男性は祖父の代から住み続けていたが、不動産会社に所有権が移った〇八年ごろ、立ち退きを求められた。ここ数年は連絡がなかったが、ハンマーを持って突然現れた男性らは、不動産会社の関係者を名乗り「許可を得ている」と説明したという。
その後、会社側から説明はないまま、七月に一部の住民に九月中の退去を求める通知書が届いた。通知書では「老朽化が進んでいる。家賃も低廉で駅近郊の再開発に伴う地価上昇を考慮すると、資産を有効利用できていないことは明白。経済的損失は多大」などと主張し、十月初旬にも解体工事に入るとしているが、借家人側の弁護士は「強制的に退去させる法的根拠はない。建物全体の価値を損なう行為で、バブル時代にあった地上げに似ている」と反論する。
長屋を所有する不動産会社の担当者は本紙の取材に「取材にはお答えできない」とした。
扉や窓が壊された後、不審者の目撃情報もあり、管轄の消防署は名古屋市火災予防条例に違反する恐れがあるとして、会社側に対策を取るよう文書を出した。だが、違反に対する罰則規定がないため「根気よく伝えるしかない」(担当者)と話している。
(佐々木香理)
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