2017年3月22日水曜日

「共謀罪』法案に懸念 治安維持法で迫害の”被害者たち”(2017年3月22日中日新聞)

「共謀罪」法案に懸念 治安維持法で迫害の“被害者”たち 

2017/3/22 朝刊
「怖い時代は二度と来てほしくない」と話す太田まささん=21日、三重県松阪市で
 懸念と抗議の声が広がる中、国会論戦が本格的に始まる。「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ組織犯罪処罰法改正案が21日、閣議決定された。テロ対策で国際協調へ踏み出せるとの評価がある一方、普通の市民団体への捜査機関の恣意(しい)的な運用を不安視する意見は根強い。戦前、思想弾圧に悪用された治安維持法の“被害者”たちは言う。「悪夢は、繰り返すな」

◆松阪の102歳・太田さん

 「あんなことは二度と起こってはならん」。閣議決定を受け、かつて思想弾圧に悪用された治安維持法(一九二五年制定)で迫害を受けた三重県松阪市の太田まささん(百二歳)は当時を振り返り、法の乱用防止を訴えた。
 十八歳だった三三年三月。同市内の自宅二階で寝ていたところ、自宅に上がり込んできた地元の男性警察官数人からいきなり、「おい、起きよ」と手を引かれて、逮捕された。
 二十人ほどの女性勾留者が雑魚寝する部屋で五十日ほど過ごした。取り調べでは「会合には誰が参加していたか」「転向しろ」と怒鳴られ、肩やひざをたたかれた。「女の人はけがをするほどではなかったが、男の人なんか殴られて、声を上げる人もいて、かわいそうやった」。五月にようやく、不起訴で釈放された。
 当時、農家が貧困にあえぎ貧富の差が広がっていた。農民運動が盛んで、抵抗なく運動の会合案内ちらしを配るのを手伝い、共産党の機関紙、赤旗を読んだ。これが治安維持法違反容疑とされた。
 二十一歳で結婚して東京に引っ越したが、東京の自宅にまで私服の特別高等警察が訪ねてきた。結婚後はちらし配りもしていなかっただけに、「監視され続けていた」と驚いた。警察官に「夫から離縁されたら、どう責任を取ってくれるのか」と怒りをぶつけたという。
 「立って歩くのもしんどい。考え事をするのも難しい」と言いつつ、「今の時代、治安維持法のようなことまではないと思うが、昔のようにちらしを配っただけで逮捕されるような怖い世の中にはなってほしくない」とつぶやいた。 (作山哲平)

◆菰野の96歳・宇佐美さん

 「ちょっと来てくれんかな」。そう言われて警察に連れて行かれた父親は、一週間戻らないこともあった。三重県菰野町の無職宇佐美定男さん(96)は、十歳前後だった当時の記憶をたどった。
 一九七四年に八十六歳で亡くなった父の服部勇さんは当時、農民運動の活動家。要人の来県時などに警察に連れて行かれたという。宇佐美さんは「慣れっこになっていたが、気持ちのいいことではなかった」と振り返る。
 宇佐美さんの娘婿で、治安維持法による社会運動弾圧の歴史を調べている同町の農業谷良隆さん(63)によると、勇さんが警察に連れ出されたのは、戦前の行政執行法に基づく「予防検束」とみられる。戦時色が濃くなり、治安維持法による思想弾圧が強まると、勇さんは活動を一時控えたという。
 谷さんは「治安維持法と連動することで旧刑法の不敬罪などほかの法律も威力を増し、国民は国の言いなりにならざるを得なかった。共謀罪も同様で、関係する法律が国民に牙をむいてくる」と懸念した。

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