2015年11月12日木曜日

笛吹市におけるリニア山梨実験線がもたらした生活環境と自然環境の破壊について(2015年11月11日、春日井リニアを問う会→春日井リニアを考える会)


春日井リニアを問う会事務局の川本さんから、(日本共産党春日井市議団伊藤健治議員の報告書を元に川本さんが再起草した文書がメールされてきましたので、掲載します。


日本共産党市議会議員団 行政調査報告
     山梨県笛吹市における
 リニア新幹線事業に係る諸問題への対応
日時 2015年10月14日 調査先 山梨県笛吹市 報告者 伊藤 建治
2007 年(平成 19 年)から笛吹市内でリニア本線工事が実施され、2010 年(平成 22 年)に工事完了。 工事着手から現在に至るまでに様々な問題が発生しており、その内容を調査した。

水の問題
トンネルからの発生水(トンネル湧水) リニアトンネルが水脈にあたりトンネルから水が発生している。
発生量:御坂町上黒駒 9~10 トン/分 御坂町大野寺 3~ 4 トン/分(写真は上黒駒)

普通の川の写真のように見えるが、これはトン ネルが水脈にぶつかった為に発生している水(ト ンネル湧水)の排水のために作られた水路で流れ ている水は 100%トンネル湧水。
今後この水は出続ける。笛吹市では高い位置か らのトンネルからの排水で、トンネルからは自然 流下にて出され、河川まで運ばれる。(春日井にお いては、地下で発生し、それをポンプアップにて 排水することになると思われる)
トンネル湧水は排水前処理されず、発生水がそ のまま河川に放流される。幸い水質に問題はない ものの、水の利用価値はない(一部農業用水に充てている。詳細は後述)とのこと。
リニアの水として売ってはどうかとのアイデアもあったが、水脈から直接汲み上げた水でなければ飲料 水としての商品価値はないらしい。
排水箇所の河川では排水能力を計算し、トンネル湧水を受け入れても、雨水排水に影響しないよう改修 が実施されている。

井戸枯れ・沢枯れについて
山村集落の簡易水道の水源となっていた井戸、8 地区 10 ケ所が枯渇している。
発生箇所はトンネルから 2 km~3 kmほどの範囲で発生している。トンネルよりも下流域に現象が多かっ たものの、一部上流においても枯渇が発生している。
事業者(鉄道・運輸機構)の事前調査は 2 km圏内で予定されていたが、笛吹市からの申し入れにより、 3 km圏内に範囲を拡大したものの、井戸枯れはこの範囲を超えて発生している。 よって、事前の調査は、広範囲に実施したほうがよいとのアドバイスを受けた。 井戸の枯渇には井戸の堀り直しや、上水道が近くまで来ている箇所については上水道への切り替えで対応したとのこと。応急対策は迅速に実施されたため、市民生活には大きな影響は出なかった。 沢枯れは河川 2 系統、天川(テカワ)、金川(カネガワ)が減水している。(枯渇に近い状態) 農業用水を取水していた農地が影響を受けたが、トンネル湧水をポンプアップによって汲み上げる渇水
補償や、畑灌(はたかん・農業用水用の水道)の整備で対応が行われた。 ただし、ポンプアップに必要な設備、電気代等の運転コストの補償が実施されるのは 30 年間のみ、と
のこと。30 年後には、利用者が自分で管理しなければならない(鉄道法による) これらの問題発生の通報は、笛吹市が窓口となり、事業者に対応を求めた。

トンネル工事時の諸問題
工事車両による影響
土砂運搬ダンプはピーク時で 450 台/日が通行しており、様々な影響が発生した。
笛吹市においては、土砂運搬ダンプのルートは広域農道などを主なルートとし市街地の通行はほとんど なかったので、市民生活への影響は抑えることができたとのこと。
以下、生じた影響の詳細
騒音・振動
トンネル掘削工事による騒音や振動の影響はほとんどなかったが、トンネル発生土を運搬する車両(土 砂運搬ダンプ)による振動の影響があった。 道路の損壊、家屋や門塀のひび割れ等。いずれも補償で修復がなされている。
ただし、道路の補修(オーバーレイ)については、土砂処分場に向かう往路側の車線の損壊がひどい場所 にのみ実施され、道路がつぎはぎだらけになってしまった。補修の方法についても市道の整備基準に合致 したものではなく、1 年もしないうちにクラック(割れ目)が生じている。
道路補修についての協定は、詳細内容を取り決めておらず、上記のような応急手当程度の補修や、最終 的にやってもらえないまま撤去されたものもあり、それについては笛吹市の単費にて補修工事などの後処 理を行っている。
交通安全
すべての車両に通し番号を表記させ、問題等があれば通報し指導する体制がとられた。
速度は 30 km/h に制限、歩行者に対してクラクション(警笛)は絶対鳴らさない。交通誘導員も、歩行者優 先を徹底 笛吹市の窓口には毎日なにがしかの通報が寄せられ、事業者への指導を徹底した。

残土処理について
工事発生土(残土)は県有地になっている境川の二つ沢(ハザマン沢、八乙女沢、いずれも笛吹市内)に埋め 立てて処分した。
残土量 160 万立方m 埋め立て面積 21.8 ヘクタール 残土によって生じた広大な土地は、山梨県は宅地として開発する計画があったが、計画は中止となり、 いまだ利用方法が決まっていない。(市内で実施された自転車競技大会の臨時駐車場として重宝したとの こと) 場所によってはかなりの雑草が繁茂しており、雑然としていた。

リニア走行に伴う影響
騒音・振動
実験線の走行時(浮上走行)の騒音は多少あるもの の、国の基準の範囲であり、のちに全面フードをす ると言われているので問題ないと思われる(JR東 海)、との報告を受けていた。 しかし現地で感じたことは上記の内容とは異なっ た。左写真の場所(上黒駒)で調査中にリニア実験線 (車両)が通過した。ズーン、ブーンという電気的な 重低音が響いた。この音は過去に聞いたことのない 種類の音で、強い違和感を覚えるものであった。 現場説明をしてくれた笛吹市職員によれば、この音は浮上走行の音とのこと。 タイヤ走行時には、凄まじい音が出るとのことだ。
現在は片側軌道のみの運用で、連結車輛数も少ない。営業運行においては、車輛も増えるし、すれ違い も生ずる。その際の騒音がどうなるのかが心配とのこと。
日照問題について
高架による日照問題が生じており補償が行われている。日陰補償は二種類で、家屋日陰補償と果樹日陰 補償。 家屋については日照時間が2~3時間/日あれば補償対象とならず、件数はすくなかったとのこと。 果樹日陰補償は 90 筆 54 名が対象となった
電磁波
電磁波の影響はないと(JR東海から)説明を受けているが環境影響評価以上のデーターは示されてい ないとのこと。リニアによって発生する電磁波は これまで人類が触れたことのない周波数帯のもので、 測定機器も特殊な専用のものが必要とのこと。JRは機器の貸し出しの要請には応じてくれないとのこと。
11 月には市の担当者が「汎用品の測定器で電磁波の測定を実施する予定だが、おそらくそれでは正確な 影響調査はできないのではと考えているとのこと。また、結果については、後日問合せをさせていただく ことにした。
観光資源としての可能性
笛吹市はリニア新幹線が地上を走る数少ない場所で、軌道の一部は開放されており、リニア新幹線の走 行車両を見ることができる。その場所を「リニアの見える丘」として舗装整備してある。視察当日も大き な望遠レンズを抱えた愛好家の方が、熱心にシャッターを切っていた。当該場所には今後、小さな公園を 整備することも検討しているとのこと。
運よく実験車両が走行している場面に遭遇し、その貴重な姿を見ることができたが、これが観光資源と して集客効果をあげられるものかどうかは、予想することはできなかった。
ただ、騒音の発生状況により住民からカバー(フード)の設置を求められる可能性もあり、そうなればリ ニアが見える場所ではなくなってしまう。

所感 


笛吹市の職員の方には貴重な時間を割いていただいて、現地の視察までさせていただいた。事前に何度 も資料は目を通していたが、実際に見て理解できることがたくさんあった。
トンネル湧水発生箇所、枯れてしまった沢、残土捨て場、リニアの見える丘等々、各ポイントを巡ったの だが、その道中に景色の美しさに目を奪われてしまった。都市部を取り囲むように丘陵が広がり、そこに は桃やブドウの畑が広がっている。五月の頃には桃の花が丘をピンク色に埋め尽くすとのこと。 リニアがなくとも、もともと豊かな観光資源に恵まれた場所である。その美しい風景の中で、リニア関連 の施設は異質さが際立っていた。
とりわけ衝撃的だったのは、トンネル湧水の量である。トンネル湧水を排水している水路の写真を見たこ とがあったが、まさかこれがすべてトンネル湧水だと思っていなかった。 これほどのトンネル湧水が発生しているのであれば、8 地区 10 ケ所もの井戸枯れや沢枯れについても納得 できる。
春日井市においては、リニアのトンネルの真上の土地についてのみ、井戸の調査が実施されているが、 笛吹市の状況を見れば、それで充分だとは言えない。春日井市の地下水の利用状況の調査は、広範囲で実 施しておくことが必要であると、笛吹市の担当者にもアドバイスをいただいた。
地下水の影響が、これほど生じているとなれば、春日井市における懸念は亜炭鉱への影響である。現在、 亜炭鉱の空洞には水が満たされていると考えられているが、ここへの影響も想定しておく必要を、改めて 感じた。
また、工事車両による影響についても、春日井市内で起こるであろう問題を予測するうえで、笛吹市の状 況を学ぶ意義は大きい。笛吹市内を走行した工事車両はピーク時で 450 台/日と春日井で予定されている 台数よりも少ない。それでいて、道路や家屋の損傷が生じ、その復旧についても、市が一部肩代わりせざ るを得ない状況が生まれている。
工事に入る前に、事業者との間で結ぶ協定は、詳細に取り決めること、工事が進む中で初めて発覚する 問題や、予想外の事態が起きても、最初の取り決めのまま進んでしまうので、ここでどれだけ詳細に取り 決めができるのかがカギになってくる。言葉の解釈まですり合わせておくべきとのアドバイスを受けた。
春日井市の担当者も近日、笛吹市に訪れて調査する予定とのこと。当局が実施する調査内容と、私たちの 調査内容をすり合わせて、対策を練っていきたい。 

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