2018年5月30日水曜日

大林組、同業他社も驚いた「新ルール」の徹底ぶり(2018年5月30日東洋経済)

大林組、同業も驚いた「新ルール」の徹底ぶり

5/30(水) 8:00配信
「●●建設さん、あれ、どう思いますか……?」

ここ最近、建設業界の人間が集まると、そんな会話が交わされるという。
「あれ」とは、ゼネコン最大手の大林組が5月14日に発表した、「再発防止策の策定について」という文書だ。

■大林だけが社長も辞任に追い込まれた

 中身に触れる前に、文書を発するに至った経緯を振り返ろう。発端は2017年12月8日、大林組が東京地検特捜部の家宅捜索を受けたことにさかのぼる。JR東海が進めるリニア中央新幹線工事について、東京地検特捜部は名古屋市にある「名城非常口建設工事」を筆頭に複数の工事の入札で受注調整が行われたとし、偽計業務妨害(後に独占禁止法違反)の疑いで大林組のほか大成建設、鹿島、清水建設の大手ゼネコン4社を家宅捜索した。
 リニア建設工事への入札参加の可否などについて、土木工事の担当者間で情報交換を行ったことが、捜査関係者に目をつけられた。今年1月23日には当時の大林組社長である白石達氏が辞任を表明する事態にまで発展。そして3月23日、大林組らゼネコン4社は独禁法違反の罪で起訴された。

 真っ先に家宅捜索を受け、起訴された4社のうち唯一社長が辞任に追い込まれた大林組。談合事件でやり玉に挙げられた立場もあってか、同社が公表した再発防止策は他社から見ても「非常に厳しい」(ゼネコン幹部)ものとなった。
 独禁法順守の研修から内部通報の奨励、受注した工事の入札過程についての抜き打ち検査に至るまで、子細にわたる項目の中でも、ひときわ業界関係者の注目を集めたのは、同業者との付き合い方に関するルールだった。

 業界団体などが主催する公式行事以外は、同業者が参加する懇親会への参加を禁止。また同業者との会合を持つ場合は、事前に報告する義務を課す。それも工事の受注に直接携わる営業担当者だけでなく、設計や建設現場、果ては事務部門に至るまで全従業員を拘束するという徹底ぶりだ。
法令順守の姿勢を打ち出した同社だが、建設業界の中でその動きが現れたのは最近のことだ。

 「名刺はここにお入れください」――。今から10~15年ほど前まで、国土交通省や地方自治体の工事担当部署には、名刺箱が置かれていた。名刺を入れるのはゼネコンの営業担当者。お目当てはもちろん、役所が発注する工事を受注することだ。

 むろん、名刺の枚数、つまり役所に顔を出した回数だけで工事がもらえるわけではない。だが、「参考程度」に名刺の枚数が数えられることはあったという。
 指名競争入札を採用している公共工事では、行政機関は名簿に登録されているあまたのゼネコンから、工事の実績や会社の規模などを基準に、入札に参加する業者を指名する。指名されなければそもそも入札に参加できないため、ゼネコン側も自社を指名してもらおうと営業に奔走する。

■談合は行政側にも都合がよい

 ゼネコン側の利益ばかりが強調される談合事件だが、発注者側にもメリットがある。工事に誰も入札しなければ、価格設定や工期、仕様がまずかったということになり、担当者は責任を問われる。
 施行能力のない会社が落札してしまい品質問題が生じた場合も、担当者の責任問題に発展しかねない。実績のある業者による落札があらかじめ決まっていれば、そうした心配はなくなる。

 だが2000年代前半には数十~100社以上のゼネコンを巻き込んだ大規模な談合事件が多数発生し、さらに2005年には旧日本道路公団の元理事が鋼橋工事の談合を主導していたことも発覚した。

 2006年には課徴金額を引き上げた改正独禁法や公益通報者保護法が相次いで施行され、談合行為に対する世間の目はますます厳しさを増している。

 ゼネコンと行政機関の距離感に対する風当たりも強まり、自治体は次々と名刺箱を撤去。それどころか、ある都道府県庁の工事担当部署では「ここから先、工事関係者の立ち入りはご遠慮ください」という掲示までするようになった。

 以来、談合の摘発件数は緩やかな減少傾向にある。

 大林組の動きは、談合撲滅に向けた一歩として業界にどこまで波及するのか。同業他社からは「わが社は営業担当者のみにとどめている。全社員まで広げる必要はないのでは」「社員のプライバシーの問題にもかかわるので難しい」という消極的な声が目立つ。
ある中堅ゼネコンの幹部は「ゼネコンに就職したばっかりに、同業他社に就職した同級生と簡単に会えなくなってしまうのはいかがなものか」と漏らす。

■一筋縄ではいかない談合撲滅

 他社からは「従業員の拘束だけでは問題は解決しない」という声も上がる。公正取引委員会が5月、農林水産省OBを通じて入札情報を入手していたとして準大手ゼネコンのフジタに処分を下す方針を固めたのは、その一例だ。

 国土交通省を筆頭に、ゼネコン各社は工事発注者である行政機関のOBを社員に迎えている。彼らの役割は、入札したが落札できなかった工事について「添削」することだ。
 近年は入札金額だけでなく、工法や環境対策など各社の提案を多面的に評価して落札者を決める「総合評価方式」が主流だ。落札業者決定後、入札参加者に開示されるのは各項目に基づく点数のみで、なぜその点数になったのかは知らされない。「金額だけで決まる入札よりも、ある意味ブラックボックスになった」(準大手ゼネコン幹部)。

 そこでOBは古巣のつてを通じて点数の根拠を聞き出し、ゼネコンは次の受注に向けて提案を変えていく。工事の入札は終了しているため直接「談合」とは呼べないが、一歩間違えれば独禁法に抵触しかねない。
 「工法にも『はやりすたり』がある。今の役所がどんな工事を求めているのかを知るべく、最初から落札する気のない工事でも、入札に臨むことがある」(中堅ゼネコン役員)

 大林組の新ルールに対して及び腰な建設業界だが、法令順守に向けた包囲網は形成されつつある。公正取引委員会の杉本和行委員長は東洋経済の取材に対して「海外では担当者同士が会って話しただけでアウト。日本でも国際ルールにのっとって判断していく」と建設業界に対して牽制球を投げた。
 大林組が策定したルールも、世界的に見れば決して厳しすぎる内容ではない。それどころか、他社も同水準のルールを求められる可能性がある。

 どうすれば談合を防げるのか。建設業にとって古くて新しい問題に対し、大林組はさながら「性悪説」とも取れる形で、1つの回答を出した。

 空前の好景気に沸く業界だが、これを教訓とせず、一部の従業員による勇み足を許せば、途端に足をすくわれる。

東洋経済オンライン

2018年5月20日日曜日

リニアが壊す暮し 渦巻く不安置き去り 沿線7都県 声上げる住民(2018年5月18日しんぶん赤旗)

沿線7都県 声上げる住民

リニアが壊す暮らし 渦巻く不安置き去り

 JR東海が2027年品川―名古屋間の開業をめざすリニア中央新幹線計画。リニア工事をめぐる談合で大手ゼネコン4社が起訴される事態になっても、工事は止まることなく進められています。しかし、工事が進む沿線各地の現場ではさまざまな問題が噴出。住民が不安や怒りの声をあげています。沿線7都県の現場から告発します。(伊藤幸、細川豊史、山梨県・渡辺正好)

東京・神奈川 ルートすら知らせず

写真
 人口が密集する住宅地の下をルートが通る東京都と神奈川県でも、住民の間にリニア中央新幹線計画への不安が広がっています。
 「うちのすぐ裏を通ると知ってびっくりした」「私たちの力で食い止める展望はあるのか」。17日に大田区で日本共産党区議団が開いた「リニア新幹線を考えるつどい」では、住民からこうした声が上がりました。
 JR東海は今月10日から各地で大深度地下(40メートル以深)の住民説明会を開いていますが、自治体の広報誌などに掲載するだけです。ルート直上の各世帯には、説明会の予定はおろか、ルートの存在すら個別に知らされていないことが明らかになっています。
 このつどいで山添拓参院議員は、リニア計画の無謀さを説明。「こんな計画を住民に知らせずにやらせてはいけない。知らない人も知ればびっくりし、不安を持つ。大きな動きをつくっていこう」と呼びかけました。
写真
(写真)山添氏(正面)に質問する「つどい」参加者=17日、東京都大田区
 共産党都議団は9日に国土交通省に対し、自然・生活環境に悪影響を与えるリニア中央新幹線計画について、大深度地下使用の認可をしないことと、工事実施計画の認可取り消しを要請しました。
 神奈川県では、相模原市でリニア新駅建設のために県立高校が移転を迫られ、市内に50ヘクタールもの車両基地の建設が計画されています。
 同市の住民は2012年に「神奈川県のリニア新幹線を考える相模原連絡会」を結成し、用地買収を防いで自然環境を守るためのトラスト運動などに取り組んでいます。

山梨 用地補償は一部だけ

写真
(写真)住宅地が密集する沿線ルートの手前に反対の看板掲げる宮沢地区=17日、山梨県南アルプス市
 山梨県南アルプス市では、JR東海が示したリニア中央新幹線のルート図は市内を斜めに横断する計画となっています。主に七つの自治会が影響を受け、沿線住民から不安と怒りの声が出されています。
 住民から、高さ20メートルを超える高架が通る計画に、生活用水として使っている湧水の地下水が高架橋梁(きょうりょう)工事によって水枯れしないか懸念の声が起こっています。山梨県が発表した環境基準で住宅地の騒音を70デシベル以下としたことにも、「耐えられるレベルではない」と批判の声があがっています。
 さらにルート沿線地区では、四角い集落の真ん中を斜めに通るため、家の敷地を斜めに切られます。住民らは「勝手口や車庫の一部がかかってもそこだけしか補償されない、これでは住み続けられない」と訴えています。
 市内の戸田、宮沢地区の二つの自治会は3年前にリニア建設反対決議をあげ、事業説明会の開催を拒否し続けています。宮沢地区では意見書を添えた署名を95%の住民から集め、JR東海が用地交渉幅を22メートルとしていることに対し、用地補償幅を100メートルとすることなどを、毎年JR東海に要請しています。
 地権者会代表の石川義章さんは、「リニアは住民が望んだものではないし、JRのやり方は許せない。今の状況では絶対に前に進めない。要望が通るまで説明会はうけない」と話しています。

静岡 未着工 県と合意なく

写真
(写真)南アルプスを流れる大井川=静岡市葵区
 沿線7都県で唯一未着工なのが静岡県です。静岡市北部の南アルプスを貫くトンネル工事で大井川の大量の減水が予測され、対策をめぐりJR東海と利水者との間で合意の見通しがたっていません。
 全長約25キロの南アルプストンネルのうち、静岡工区は10・7キロ。このトンネルが大井川源流部を貫きます。JR東海は工事により大井川の流量が毎秒2トン減少すると試算し、「減った分を戻す」として導水路トンネルで下流に水を戻すことなどを計画しています。
 しかし全量は回復できないため、川勝平太知事や利水者は「湧水の全量を恒久的に確実に戻す」ことを要望。昨年の工事契約以降もJR東海と利水者との協定は締結されていません。
 大井川の水は発電や農業、工業、生活用水として下流域の生活を支えています。しかし流量は多くなく昨年も節水対策をしています。県の担当者は「水は県民にとって大事なもの。ひくことなく折衝したい。協定締結のない着工はないと信頼している」と語ります。水が戻らない上流部の生態系への影響も懸念されます。大量の発生土を大井川の川岸に積む計画による災害や環境破壊の危険などの問題も山積みです。
 「リニア新幹線を考える静岡県民ネットワーク」の林克共同代表(63)は、「大切な水と環境を守る立場で県が防波堤の役割を果たしている。世論を高めしっかり共同を広げていきたい」と話します。

長野 地滑り地帯 発破工事

 南アルプストンネル工事の長野県側坑口・大鹿村では現在、二つの非常口(作業用トンネル坑口)で火薬による発破掘削が進められています。
 「突然『ドーン』と雷のような音がして家が揺れた。体に響くような振動があった」
 3000メートル級の山々に抱かれた同村最奥の集落、釜沢地区の自治会長・谷口昇さん(48)は発破の衝撃を語ります。除山(のぞきやま)非常口で最初の発破があったのは昨年12月。発破後、谷口さん宅では雨もりが始まり、風呂場の床がひび割れました。その後自宅をふくめ2軒で石垣が崩れたといいます。被害を訴えましたが因果関係は認められていません。
 「もともとここはいろんな方向に地滑りを起こし崩れやすい。こんな場所でさらに振動を与える工事はやめてほしい。不安はピークです。何か起きるたびに『ここに生活しているんだ』と主張しなければいけない。まして声をあげられない動物や自然はどうなるのか」
 毎日発破が行われますが、掘りだした土の行き先は決まらず現在は仮置き状態です。大鹿村では約300万立方メートル、長野県全体では約970万立方メートルの土がでる計画ですが、JR東海によれば最終置き場として確保したのは3万立方メートルで他は協議中です。
 しかも置き場候補地は崩れやすい沢や谷ばかり。「三六災害」と呼ばれる大水害(1961年)の記憶から、豊丘村伴野地区の候補地では下流の小園(おぞの)地区の住民が反対の署名運動を起こし、計画を断念させました。
 大鹿村内も三六災害で氾濫した河川周辺などに置き場が計画されています。「大鹿の十年先を変える会」の宗像充さん(42)は、「将来にわたって安全が保てるのか。説明もなく決定を急ぐJRや村のやり方に住民の反発が起きている」と訴えます。

岐阜 ウラン鉱床掘る危険

写真
(写真)南垣外非常口から発生土を運ぶ巨大ベルトコンベヤー=4月9日、岐阜県瑞浪市
 岐阜県内は約55キロの区間中、現在2カ所の非常口(作業用トンネル掘削口)で工事が行われています。東濃地域ではウラン鉱床が点在する地帯を掘ることに住民が不安を抱えています。
 瑞浪(みずなみ)市の日吉トンネル南垣外(みなみがいと)工区では、非常口から本坑につながる斜坑の掘削が進んでいます。発生土を運び出す巨大ベルトコンベヤーが稼働し、住民によると5月から発破掘削も試験的に始まりました。山に囲まれた静かな暮らしを振動や騒音が襲います。
 さらにこの先ウラン鉱床が点在する地帯を掘る計画です。ウランが掘りだされれば、肺がんなど健康被害を起こすラドンが空中に放出される危険があります。
 JR東海は、ウラン鉱床を避けて通ると説明し、ウランを掘りだした場合の最終処分方法や処分地は示していません。
 ところが沿線の住民団体などの放射線量調査では、品川から245キロのリニアルート真上で、周辺のウラン鉱床地帯よりも高い数値が毎回出ています。
 線量調査をしてきた「多治見を放射能から守ろう!市民の会」の井上敏夫代表(69)は「住民や作業員の命や健康に関わる問題。ウランが出たときの処分先も決めないまま掘削を急ぐのはあまりに危険。掘削を急ぐべきではない」と語ります。

愛知 住民に立ち退き迫る

 愛知県の名古屋駅周辺では、住民が立ち退きや「区分地上権」の契約設定を迫られています。
 JR東海は名古屋駅の東西約1キロにわたって開削工事を行い、地下30メートルに新駅を建設する計画です。立ち退き対象の地権者は約120人。JR東海の委託をうけ名古屋市の外郭団体「名古屋まちづくり公社」が用地買収にあたっています。
 中村区の女性(80)も立ち退きを迫られている一人。公社の人がたびたび訪ねてきますが、「この年で新しい土地を探すなんてできない」と拒んでいます。「近所の人も出ていきなさって、さみしい。先祖代々の土地で静かに暮らしていたのに、リニアなんて来なければよかった。死ぬまでここにいたい…」
 公社は「もうみんな契約をもらっている」と迫ってくると言いますが、JR東海によると西側で約3割の取得、東側は協議中です。
 地下40メートルより浅いトンネル区域では区分地上権の設定が必要となり、地権者約560人との本格的な契約はこれから。土地利用に制限がかかり、周辺地域への影響が懸念されるため不安を訴える住民も。
 「中村・リニアを考える会」の鳥居勝事務局長(70)は「国家的プロジェクトを語って強引に用地収用を迫ることは許されない。住民に損害を与えることがないよう対応を求めたい」と語ります。
 地下40メートルより深いトンネル区域ではJRが国に大深度地下使用を申請中。許可されれば土地買収の必要がなくなります。説明会では住民から疑問や不安が続出しました。
 リニア中央新幹線計画 超電導で浮上するリニアモーター車両で、東京―大阪間を時速500キロで走る総事業費約9兆円の巨大事業。建設主体はJR東海で、2027年品川―名古屋間の先行開業、45年に大阪までの開通をめざしていました。14年に国の事業実施認可を受けて着工。安倍政権が国家的プロジェクトと位置付け16年には、名古屋―大阪間を最大8年前倒しするという理由で公的資金(財政投融資)3兆円が投入されました。品川―名古屋間約286キロメートルの約86%がトンネル。環境破壊、安全性、採算性など多岐にわたる問題が指摘されています。16年には工事実施計画認可の取り消しを国に求め沿線の738人が東京地裁に提訴し、現在係争中です。

pageup